仙台高等裁判所秋田支部 昭和30年(う)116号 判決
所論は要するに原判決の量刑は軽きに失し不当であるというに帰するので訴訟記録並びに原審及び当審で取り調べた証拠に基き検討を加えるに被告人の所為は刑法第二四〇条後段の強盗殺人と同法第一九〇条の死体遺棄に該当し且つ同法第四五条前段の併合罪関係にあるものであつてしかも前者の罪の刑については死刑又は無期懲役に限定されている。しかして死刑は憲法第三六条にいわゆる残虐な刑罰には該当しないとしても極刑ではあるし斯る刑罰が存在することは現社会情勢下においてなおその必要を肯認すべきであるが之が量定に当つては主観、客観両面より慎重な検討を加え犯罪事実の認定に誤りのないことは勿論その犯情につき掬すべき情状なく又犯人に更生の途なく社会の一員として生存する意義を見出しえない場合に極限すべきである。
よつて本件につき是を観るに被告人は窃盗事件のため能代営林署林業夫の定職を失いその後は日雇、出稼等をして困窮生活を続け妻を自分の代りに失業対策事業の人夫に出して一時を凌ぎ自分は仕事に出るようなふりをして毎日家を出、知人宅等で遊んでいることが多かつたため年末に支給される年末賞与(賃金増給)を貰える見込がなかつたためその金策に焦慮の余り予ねて知合の大金を常に身につけているとの噂のある河田三平を遂に殺害して金員を奪取しようと考え殺害用の鉈を携帯し右三平を昭和二九年十二月二四日夜寂しい人跡稀れな能代市後谷地国有林に誘い出し右鉈で同人の頭部を滅多打ちしてその反抗を抑圧し現金五千円を奪取し右三平をその場で死亡させ更に同死体を同所附近に穴を掘つてその中に引摺り入れて之を遺棄したのであつてその原因動機態様並に犯行後死体の隠匿につき加工しその露見を防止するに努める等冷静な計画の下に行動したこと、及び犯行の態様は天人共に許さざる兇暴残虐なものであること、被害者河田三平には本件犯行を誘発するに足る格別の過失なく被告人に怨恨を抱かせるべき何等の事由も与えていないこと及びその遺族は将来の希望を失い悲境に喘いでいること、並びに一般社会に及ぼした衝撃等を考慮すればその罪死刑に値するというべきであるが、一方被告人の性格、犯行当時の生活に対する精神的、物質的な苦痛焦慮とその対照となつた被害者河田三平の性格、応待ぶり、被告人の家族関係、及び犯行後の現在、悔悟し只管被害者の冥福を祈り遺族の平穏を祈願している事実を窺いうること等を斟酌すれば被告人にはなお一掬の情状酌量の余地がない訳でもなく、その更生も全く期待しえられない訳でもないと認められるし、社会の一部より同情を寄せられている点も窺われるので、社会の一員として生存する価値なきものとして抹殺するのは相当でないと認める。よつて原判決が被告人に対し無期懲役刑を量定したのを目してその刑軽きに失する不当があるということは出来ない。論旨は採用の限りでない。
(裁判長裁判官 松村美佐男 裁判官 大島雷三 裁判官 浜辺信義)